経験費とは

私は自分の人生で経験したことがないものには惜しみなく金を注ぎまくる「経験費」というものを家計簿に計上している。以前は老後や万が一のためと金を使うことを躊躇していたが、ある日こんなことを考えた。「これでは老人になるために生きているのと同じだ!」そう考えた私は貯金は最低限にして、万が一の時の病気や事故やトラブルは保険でリスクヘッジすることにした。

この国は社会保障が充実している。足りないものは民間の保険で補ってしまえばいい。健康な体さえあれば何でもできる。だが、この若さは永遠ではない。間違いなく10年後は今よりも肉体は衰えているだろうし、色々と面倒なことも増えているだろう。そう考えると今が何をするにしても好機なのだ。いつだって今が人生の中で一番若い。

社会人になり学生の時よりも多少時間は失ったが、安定した収入がある。経験欲を抑えきれない私は同期の中でもぶっちぎって色々なことに金を使いまくった。ここで最近私が「経験したことがないから」という理由だけでやったことを列挙したいと思う。

 

経験費の例

ダイビングのライセンスを取った

実はからきし初めてではなく、以前屋久島で潜ったことがある。そのときの感動が忘れられなかったのだ。ダイビングが趣味の人は実に個性的で面白い。年齢も職業もバラバラだが、フレンドリーに話し合う。スクールに入るとみんなファミリーみたいな感じだ。しかし、いい加減な付き合いではなく、きちんと個人の予定も尊重する。大人な付き合い方で自分は好きだ。

海に潜った時の気分は本当に最高で、まるで空を飛んでいるような感じがする。自分の吐いた息が海面に登っていくのを仰向けになってただ眺めるだけでも面白い。水族館で見ていた魚が目の前に現れて、夢の中にいるような感覚になる。

静岡で行った海洋実習にて。静岡でダイビングというイメージは全くないが、透明度がとても高く驚いた。

西日本を一周した

GWに西日本を車で一周した。車はリースだったが書類上では自分の車なので人生で初めてマイカーを手に入れたことになる。嬉しさと楽しさで舞い上がって東京から新潟まで行き、そのまま日本海をずっと島根まで走った。そこから広島まで下りて尾道から四国に入り、フェリーで東京まで帰ってきた。

泊まるホテルは決めず、走れるだけ走って疲れたら泊まる。道の駅に寄ってはその日に飲む日本酒とアテに名産品を買っては夜に飲んで、また走りだす。ずっとそれを繰り返した。北陸の山々、島根の雄大な自然、四国の海と美しい空。自分が今まで見てきたものは何だったのだろうという程の美しい風景を見た。

旅程の全ルート。

四国にて。海も空も透き通るような透明で美しかった。

富山にて。絶景とはこのことだろう。あまりの美しさに言葉が出なかった。

行ったことがない場所に手当たり次第行った

車が手元にあったので、千葉の海岸線や福島の大自然を走り回った。他にも入ったことがないレストランや美術館や個人経営の店に行ってみたりもした。先日は藤田嗣治展を見て、藝祭にも足を運んだ。

これまで東大、東京外語大等の学祭に行ったことはあるが藝大は全く異なる雰囲気というか、急に演奏が始まったりするあたりさすが藝大だなと思った。技術と才能を持った学生が素晴らしい演奏を目の前で奏でている。オーケストラのような素晴らしさとは違う、あの年齢でしか出せない輝きが眩しかった。

藤田嗣治展。土日は混んでいるらしいが、並ぶことはなかった。藤田嗣治といえば狂乱のパリと呼ばれた1920年代のパリを経験した唯一の日本人。その時に藤田がどのような考えで作品を描いていたかを知ることができた。私にとって美術館というより博物館だ。その時代に流れていた雰囲気を感じることができる。

今まで敬遠していたフォトコンテストに写真を出してみた

受賞作品を見ていると「自分の写真を出してもなぁ。。。」と思っていたが、「人生でやったことがない」という理由で作品を出した(もちろん自分なりの力作で)。11月に結果が出るのでそれまで楽しみに待っていることにする。

 

有価証券報告書と決算短信を読めるようにした

大学在学中に講師の方から「バランスシートを読めるようになりなさい。会社というものがきちんと見えてくるから」と何度も言われバランスシートは読めるようになったのだが、もっと深掘りして色々な会社の短信や有報を暇な時に読んでいた。

とある呉服屋の利益率が年々改善していたので気になって調べたところ、子会社でローンを提供していた。着物をローンで買ってもらうのだ。やっていることは単に他社ローンの斡旋をやめただけだが、会社の経営はみるみると改善していった。着物を実質値上げして売っているようなものだから当然だろう。お金でお金を稼ぐのが一番効率がいいと思った体験だった。経営者の手腕というものが如実に短信や有報から見えてくる。また大学のバランスシートを読んでいても面白い。交付金に頼りきりな大学の運営が如実に見て取れる。

勉強するのに読んだ本↓。だいたい何が書かれているか知りたければこの2冊でいいと思う。

 

ひたすら歴史を勉強してみる

勉強という感じではないのだが、有報を読んだり旅行をしているうちに、地方によって産業の偏りがあることを強く感じるようになった。例えば北陸はとてつもなく工業が盛んだ。自動車部品を作っているメーカーやら、医療系のメーカーやら妙に北陸の企業が多い。

調べてみると冬の農業ができない間は、紡績や漆器などの室内でできる物作りをしていたことが発端らしい。そうやって工芸品で高めていた技術が明治時代になって工業製品へとシフトして今に至るとのことだった。

冬場になると雪が降って何もできない地域は絹を作っていることが多い。富山の五箇山の合掌造りも二階部分は蚕を飼育するスペースになっている。このような産業基盤が強い地域は教育水準も高いことが多い。私の勝手な想像だと、安定した産業による安定した税収で藩主が教育機関を整備したのではと思っている。

五箇山の合掌造り。白川郷に比べてそこまで観光地化されていない。

合掌造りの二階部分は蚕を育てて絹を作り出す作業場になっていたり、工芸品を作るスペースになっている

まとめ:歳をとると自分の世界を広げなくなる

頭の中にこのような知識のスクラップブックができると、日本というものがまた違った姿に見える。その土地にある歴史的な建造物に対する見方も変わってくる。何千年と滅びずやってきた日本民族という姿がなんとなく見えてくる。時間の上にある点と点が結び付いて、それがさらに自分と結びつく感じがする。

以前はこれだけ勉強したのだから大抵のことは知っているだろうと思っていた。しかし、知れば知るほど日本は広く、知らないことが山のようにあることを知った。そうやって自分の世界を広げていく。歳を取ると生きることに精一杯になって自分の世界を広げることをやめてしまう。しかしそれは逆で、広げないからこそ生きることだけで精一杯になってしまうのだと思う。

歴史は教科書だけのものでもなく、世界はGoogleマップあるものだけではない。カメラを通しただけのものが全てでもない。手にして肌に触れて、目で見て、体を動かして経験する。体と心を両方使わないといけない。効率だけを考えるなら死んほうがはるかに効率的だろう。効率を考えた人生など、効率的に寿命を迎えるのと同じなのだから。人間が他の動物と違うのは生きるだけに脳が使われていないという点だ。それを捨ててしまっては他の動物と何も変わらない。せっかく人間として生まれたのだから人間として生きてみた方が面白い。

あなたもどうですか?経験費のススメ。